Vol. 15

ロングフライト血栓症

夏休みには、多くの人々が海外旅行に行きます。そのため、国際空港は人々でごった返しています。東南アジアに行く人、ヨーロッパに行く人、米国に行く人など目的地は様々ですが、当然のことながら、遠方に旅行に行く人は長時間のフライトを経験しなければなりません。そのときに問題となるのが、「ロングフライト血栓症」です。以前、「エコノミークラス症候群」などと呼ばれていましたが、機内での水分不足と運動不足という条件が整えば、ファーストクラスに搭乗している人であっても発症することから、現在は「ロングフライト血栓症」と呼ばれています。

これは「脹脛(ふくらはぎ)」の血管の中に血液の塊(血栓)ができることによって発症する病気です。軽症では左右のどちらかの脹脛が腫れたり、鈍い痛みを経験します。5人のうち4人は左脚の脹脛で血栓ができますが、これには解剖学的な理由があります。骨盤内で左脚から心臓に向かう静脈が太い動脈をまたいでいるため、動脈に圧迫されて流れが悪くなっているからです。軽症は自然に治癒します。

中等度のロングフライト血栓症では血管に血栓が次々と付着してゆき、長い血栓ができあがり、大腿や骨盤内の太い静脈を閉塞してしまいます。これによって閉塞側の下肢が浮腫んだり、痛みを感じたりします。問題は重症のロングフライト血栓症です。重症では脹脛の血管の壁に付着していた長い血栓が血流とともに大静脈の中を流れてゆき、心臓に到達し、その後、肺に入り込んで肺の血管を詰まらせてしまうというものです。多少の詰まり程度であれば症状はないのですが、肺の50%以上の閉塞が発生するとショックを起こすことや、突然死することがあります。

ロングフライト血栓症は6時間以上のフライトで発生しますが、10時間以上では重症になる人の数が増えてきます。それでは、このような合併症を防ぐためにはどのようにしたらよいのでしょうか? まず、機内でワインやビールを飲む場合、飲酒量を減らすことが大切です。アルコールは利尿作用があるので、脱水となってしまい、血流が滞り血栓ができやすくなるからです。逆に、ミネラルウオーターを飲むことは適切な対応といえます。機内は乾燥しているので、何もしなくても脱水傾向となっています。そのため、水分の確保は大切です。また、2~3時間毎に機内を歩くこともお勧めします。下肢の血流を良くして血栓が形成されるのを防ぐためです。つま先を前後に動かすことも有効です。

ときどき、現地での活動を確保するために睡眠を機内でとっておこうということで睡眠薬を飲んで熟睡する人がいますが、これは避けましょう。座席に座って寝るという不自然な姿勢での睡眠は下肢を圧迫することになり、血流を停滞させてしまうからです。同様に、足を組んで寝ることも避けます。やはり、血流が悪くなるからです。最近は血栓予防用ソックスが簡単に入手できますので、心配な方はこれを着用してから飛行機に搭乗することをお勧めします。