Vol. 71

尿路感染症

尿路感染症には膀胱炎や腎盂腎炎があります。これらは女性に多い感染症であり、男性ではあまり見られません。これば尿道の解剖学的な相違によるものと言われています。ただし、男性であっても、加齢にともなって尿路感染症を経験する人が増えてきます。

まず、膀胱炎ですが、症状としては尿が頻回になり、排尿するときには痛みを経験します。排尿したとしても膀胱に尿が残った感じが続き、また、トイレに行きたくなります。抗菌薬を3日ほど内服することによって治療します。膀胱炎は殆どが女性でみられます。

腎盂腎炎では細菌が尿管を上ってゆき、腎臓に到達することによって発症する感染症です。高熱がでて、腰痛(腎臓の高さ)がみられます。7~14日程度の抗菌薬による治療をおこないます。これもまた女性に多い感染症です。ときどき、腎臓で増殖した細菌が血流に入り込んで敗血症に進展することもあるので気を付けなければなりません。敗血症では血圧が低下したりして、生命に危険を及ぼすことがあります。

男性が膀胱炎や腎盂腎炎を合併したら、尿路系に何らかの異常(前立腺肥大、前立腺がん、膀胱結石、尿路の先天奇形など)がある可能性があります。この場合には尿の流れが阻害されるので、再燃を繰り返すことがあります。女性であっても、尿路系の異常がみられたら、同様に再燃を繰り返す可能性が高まります。こういった状況では尿路感染を引き起こしている病原体は通常みられる大腸菌などではなく、耐性菌が関与していることがあります。

ここで是非とも知っていただきたい疾患に「無症候性細菌尿」があります。これは頻尿、排尿時痛、発熱などの症状がみられないけれども、尿に多数の細菌がみられる状態のことをいいます。やはり、女性に多くみられる疾患であり、加齢にともない頻度は増加してゆきます。尿に細菌が入り込んでいることから抗菌薬にて駆除したい気持ちになるかもしれませんが、治療する必要はありません。抗菌薬で駆除したとしても、1年もすれば約半数で無症候性細菌尿となってしまうからです。

ただし、妊婦と泌尿器科手術前の患者さんでは無症候性細菌尿がみられた場合には治療しなければなりません。無症候性細菌尿の妊婦を無治療のままにしておくと、腎盂腎炎のみならず、早産、低体重児、周産期死亡になる危険性が高くなります。泌尿器手術前の患者さんに無症候性細菌尿が見られると術後に菌血症になることがあります。