Vol. 89

風邪

風邪の正式名称は「かぜ症候群」です。「症候群」というのは何らかの病気があって、それが原因で発生する様々な症状をひとまとめにした状況のことを言います。かぜ症候群では咳、くしゃみ、鼻水といったものが症状としてみられます。

かぜ症候群の原因の約8割がウイルスです。ライノウイルスがそのなかの3~5割を占めており、次にコロナウイルスが1~2割を占めています。インフルエンザウイルスやRSウイルスといったウイルスもかぜ症候群の原因になることがあります。原因に占める割合は少なくなりますが、肺炎球菌やレンサ球菌といった細菌もかぜ症候群を引き起こすことがあります。

かぜ症候群ではウイルスに感染してから1~3日後に症状がみられるようになります。この場合、ウイルスが気道などを直接障害することはなく、感染した人のウイルスに対する反応が鼻水、鼻づまり、倦怠感、咳を引き起こします。発熱は成人ではあまりみられませんが、小児では発熱することが多いです。鼻汁が膿っぽいということで抗菌薬を希望する方がいますが、膿性鼻汁であるからといって細菌感染であるということはありません。このような症状は3~7日程度で消失します。

かぜ症候群で受診する人は多くいますが、これを薬剤によって早期に治癒させることはできません。自然に治癒する感染症であることと、ライノウイルスやコロナウイルスに有効な抗ウイルス薬は存在しないからです。症状はウイルスに対する反応によるものなので、対症的に治療することになります。病院ではかぜ症候群ということで受診したけれども、実は「肺炎であった」「インフルエンザであった」「肺がんであった」「肺結核であった」などということがないように鑑別することに主眼を置いています。

かぜ症候群に罹患すると気分が不良となり、仕事や学業にも差し支えます。直接ウイルスを殺滅するような薬剤がないことから、予防が大切です。ライノウイルスは環境表面に2時間は生息できます。例えば、鼻汁をティッシュペーパーでふき取った人の手指にウイルスが付着し、その手でドアノブなどに触れれば、ドアノブにウイルスが付着します。その表面ではライノウイルスが2時間は生息しているので、別の人がドアノブを握れば、その手指にウイルスが付着し、そのまま眼や鼻の粘膜に触れればウイルスに感染してしまうのです。このようなことを避けるために手洗いやアルコールによる手指消毒はかぜ症候群の予防にはとても大切なのです。また、ドアノブや手すりのような人々の手指が頻回に触れるような環境表面の清掃も大切です。この場合はアルコールや家庭用洗浄剤を用いて拭き取りをします。もちろん、十分な栄養と睡眠もかぜ症候群の予防として大切です。