Vol. 11

プール

夏になると多くの人々がプールを楽しんでいます。学校でもプールの授業があります。水泳は健康によく、水難事故が発生したときには生命を守ることができるので、プールは大切な運動の場と思います。しかし、プールに下痢を引き起こす感染症に罹患している人が入り込んでしまうと、プールの水が病原体で汚染します。臀部や肛門周囲に病原体が付着しているからです。プールで楽しんでいる人々は水中にもぐったり、お互いに水を掛け合ったりしているので、人々の口の中にプール水が入り込んでいます。そのとき、病原体も入り込むのです。ここでは、プールと病原体についてのお話しをしたいと思います。

米国疾病管理予防センター(CDC)がプールに関する調査をおこなったことがあります。調査の結果、プールで子どもを遊ばせている多くの親はプールの水を介して感染症に罹患することを知らないことが判明しました。「塩素の臭いがすればプールの水は滅菌されるので心配ない」と信じていたのです。確かに塩素は病原体を死滅させることができますが、それには時間を要します。病原大腸菌O157ですと、1分以内に死滅させることができます。しかし、A型肝炎ウイルス(これは口から体内に入り込む肝炎ウイルスです)やランブル鞭毛虫(下痢や腹痛を引き起こす寄生虫です)ではそれぞれ16分と45分を要します。クリプトスポリジウム(下痢を引き起こす寄生虫です)ですと、10.6日もかかるのです。

まず、プールに入るときには「他の人々と水を共有する」という認識をもたなければなりません。プールに貯留されている水に数多くの人々が浸かるのですから、水の共有というのは間違いのないことです。そして、プール水には人間の糞便が溶け込んでいることも知っていただきたく思います。健康な人々は排便後には肛門周囲に付着している糞便をトイレットペーパーなどでふき取るのですが、それでも平均0.14gの糞便が周囲に付着していることが知られています。そのため、100人の人々がプールに入れば0.14gx100=14gの糞便がプール水に溶け込んでいることになります。最近は温水洗浄便座が利用されているので糞便量は少なくなっているかもしれませんが、それでも肛門周囲から糞便が完璧に洗い流されていることはありません。

下痢のある人は下痢を引き起こす病原体(ノロウイルスなど)に感染しているかもしれません。そのような人がプールに入れば、水が汚染されてしまいます。やはり、プールに入ることは遠慮していただきたく思います。市民プールや公用プールなどに行くと、入り口に「皮膚病の方、刺青の方は入場禁止」などと掲載されています。しかし、「下痢のある方は入場禁止」という掲示は殆どみかけません。是非とも掲示してほしいと思います。プールの水を口に含んで「噴水!」などと叫びながら遊んでいる子どもがいますが、そのようにプール水を口に含んだり、飲み込んだりしないように教育することも大切です。