Vol. 26

インフルエンザワクチンの効果

インフルエンザワクチンの接種の季節がやってきました。診療所や病院はインフルエンザワクチンを接種できるように準備しています。特に、高齢者や抵抗力の低下している人ではインフルエンザウイルスに感染すると重症肺炎などの重篤な合併症が引き起こされるので、是非とも接種してほしいと思います。

多くの人々がインフルエンザワクチンを接種しています。それにも拘わらず、インフルエンザに罹患してしまうことがあります。そうすると、「インフルエンザワクチンを接種したのに、インフルエンザになってしまった。ワクチンは効果がないのでは?」と思ってしまう人もいるのではないでしょうか?

インフルエンザワクチンの効果については、毎年、多くの研究者が調査をしています。ある研究者は「インフルエンザによって引き起こされる合併症による死亡をどの程度、減らすことができるか?」を調査しています。別の研究者は「インフルエンザによって集中治療を必要とする合併症をどの程度、減らすことができるか?」を調べています。米国疾病管理予防センター(CDC)は「インフルエンザによって、外来受診や救急受診する人の数をどの程度、減らすことができるか?」を調査しています。

ワクチンの有効性は毎年異なり、CDCの調査では10~60%程度となっています。効果のあるシーズンでは60%程度、効果がみられないシーズンでは10%程度ということです。60%の有効性というのは「一般外来や救急外来にインフルエンザによって受診した人が100人いた場合、ワクチンを接種していれば60人は受診しなかったであろう」という意味です。「流行しているインフルエンザウイルス」と「ワクチンに含まれているインフルエンザウイルス」のタイプが近似していると、有効性は60%程度となり、相違が大きければ10%程度ということになります。それでは、ワクチンの有効性が10%のときならば、ワクチンは接種しなくてもよいのでしょうか?

ワクチンの有効性はインフルエンザの流行が始まってから判明します。1月頃に判るのです。一方、ワクチンは10~12月に接種しています。そのため、ワクチンの有効性が判明してから接種するという戦略は現実的ではありません。また、ワクチンは接種してから2週間ほどで効果がみられるので、流行が始まってからの接種では間に合いません。もちろん、インフルエンザワクチンを打ち忘れた人が1月になってから接種しようとした場合、有効性が10%であったら接種を迷うということはあり得ます。既に述べたように、10%という数字は外来受診や救急受診での有効性をみています。重症合併症を減らしたり、死亡を予防する効果が10%ということはありません。重症化や死亡へのワクチンの予防効果は高いのでワクチンの接種は必要なのです。CDCは「僅か10%の有効性であっても、米国では65歳以上の成人において約13,000件のインフルエンザ関連入院を予防できるであろう」と推定しています。

インフルエンザウイルスに感染しないための予防はマスクと手洗いであり、ワクチンではありません。重症化や死亡を予防するのがワクチンなのです。毎年、必ずワクチンは接種してほしいと思います。