Vol. 35

エンテロウイルスD68

小児科の領域で問題となっているのが、「エンテロウイルスD68」です。感冒症状がみられたあとに、原因不明の麻痺となった子どもから検出されているからです。このウイルスが本当に麻痺の原因か否かは、まだ明らかとはなっていませんが、大変気になるところです。というのは、このウイルスはポリオ(かつては小児に多発したところから小児麻痺ともよばれていました)の原因ウイルスである「ポリオウイルス」の親戚というべきウイルスだからです。

「エンテロ」というのは「腸管」という意味です。腸管内で増殖するウイルスということで「エンテロウイルス属」と呼ばれるグループがあります。そのなかにポリオウイルスやエンテロウイルスD68などが含まれているのです。エンテロウイルス属には100以上の種類のウイルスがあります。そのなかの1つがポリオウイルスであり、それ以外のウイルスの1つが「エンテロウイルスD68」なのです。このウイルスは1962年にカリフォルニアにて初めて発見されました。

エンテロウイルスD68は軽度~重度の呼吸器感染症を引き起こします。軽度というのは鼻汁、くしゃみ、咳、筋肉痛などです。重度というのは呼吸困難などの症状です。このウイルスは感染者の気道分泌物(唾液、鼻汁、喀痰など)にみられます。そのため、感染者が咳、くしゃみをしたときにヒトからヒトに伝播します。感染者が触れた環境表面に別の人が触れることによっても伝播します。

これまで、エンテロウイルスD68は重症呼吸器感染症の集団感染を引き起こす可能性があるウイルスとして警戒されていました。その多くが小児であり、とくに、喘息などの合併症を持った小児で重症者が多くみられたのです。しかし、最近はエンテロウイルスD68が小児の麻痺の原因ではないかという新しい疑惑がもたれているのです。そのため、子どもを持たれている親にとっては大変気になるウイルスです。

それではどのように感染を防いだらよいのでしょうか?まず、手指衛生です。石鹸と流水による手洗いもしくはアルコール手指消毒薬による手指衛生が大切です。もし、手指衛生していなければ、その手で眼、鼻、口に触れてはいけません。病気の人と食器を共有することも避けなければなりません。玩具、ドアノブなどの手指が頻回に触れるところの清掃も大切です。もちろん、呼吸器感染症の症状のある人は咳エチケットをします。