Vol. 61

梅毒

最近、梅毒の患者が増えてきました。梅毒は昔から性感染症として有名ですが、今一度、解説したいと思います。梅毒には顕症梅毒と無症候梅毒があります。顕症梅毒というのは何らかの症状のある梅毒です。無症候梅毒というのは何も症状のない梅毒です。

まず、顕症梅毒についてです。これは第1期から第4期に向かって進行してゆきます。第1期というのは感染してから3週間の潜伏期を終えてから始まり、3ヶ月までの経過を言います。この時期は下疳と呼ばれる硬くて小さい円形の無痛性の発疹がみられます。これは梅毒トリポネーマという病原体が体内に侵入したところにみられます。下疳は3~6週間持続し、治療せずとも治癒します。しかし、抗菌薬による治療をしないと第2期に進行します。

第2期は感染してから3ヶ月から3年までの期間です。この時期には皮膚や粘膜に発疹がみられます。発疹には掻痒感はありません。赤色もしくは赤褐色の斑点が体幹のみならず、手掌および足底にもみられます。この発疹は余りにも薄いので気づかれないこともあります。発疹に加えて、第2期梅毒の症状には発熱、リンパ節腫大、咽頭痛、むらのある脱毛、頭痛、体重減少、筋肉痛、倦怠感があります。第2期梅毒の症状も治療の有無に拘わらず、自然に改善します。しかし、治療されなければ第3期梅毒に進行します。

第3期は感染してから3年から10年の時期です。このときにはゴム腫とよばれる皮膚の腫瘤がみられます。更に進行すると第4期となります。これは感染後10年以降の時期ですが、脊髄癆(梅毒によって脊髄が侵される疾患)と呼ばれる症状を呈します。最近はゴム腫や脊髄癆は殆どみられなくなりました。

このような第1~4期に加えて、神経梅毒があります。これは梅毒の経過のいずれの時期でも発症します。症状は脳神経機能の障害、髄膜炎、精神状態の変化、聴覚や視覚の異常などです。

無症候梅毒は早期潜伏期(感染してから1年未満)と後期潜伏期(感染後1年以降)にわかれます。この時期には何も症状はみられませんが、血液検査にて梅毒検査が陽性となります。

梅毒の患者が他の人に梅毒スピロヘータを感染させることができるのは、皮膚や粘膜に梅毒症状があるときのみです。また、感染後1年を経過するとそのような症状は稀です。従って、第1期、第2期、早期潜伏期の梅毒患者だけが感染源になりうると考えてください。

梅毒の治療はペニシリンです。これを第1期では2~4週間、第2期では4~8週間、第3期では8~12週間の期間、内服する必要があります。ただ、治療の開始後24時間以内に発熱、頭痛、筋肉痛がみられることがあります。これは梅毒スピロヘータがペニシリンで破壊されることによるものです。対処法としては解熱剤が用いられます。