Vol. 75

薬剤熱

薬剤熱は薬剤を使用しているときに副作用としてみられる発熱のことです。どのような薬剤で薬剤熱がみられるかと言うと、「すべての薬剤には薬剤熱を呈する可能性がある」ということになります。そのため、処方される薬剤の数が増えるに従って、薬剤熱を経験する危険性は増大することになります。特に、高齢者では合併症が多いので、その治療のために多くの薬剤が処方されています。従って、薬剤熱に遭遇する機会も増えています。

「薬剤熱」とは「薬剤の投与によって発熱した」「薬剤の中止によって解熱した」「注意深く診察し、検査しても、発熱の原因が薬剤以外に見当たらない」の3つを満たした状況です。何か検査をして薬剤熱と診断できることはありません。様々な診察や検査を進めてゆき「薬剤熱」という診断に到達するしかないのです。薬剤熱の原因には過敏反応、体温調節系の変化、特異体質など様々なものがありますが、最も頻度の高いのは過敏反応です。

一般に、薬剤熱は原因となった薬剤を内服・点滴を開始してから1~2週間でみられます。しかし、24時間以内で発熱することもあるし、数か月の経過ののちに発熱することもあります。発熱するまでに数年が経過していることもあります。そのため、薬剤が長期間投与されているということで、薬物熱を否定することはできません。ただし、過去に薬剤熱を経験した人が同じ薬剤を使用すると、数時間以内に発熱することがあります。ときどき、感染症が抗菌薬によって改善し、解熱しつつあるところで再び発熱することがあります。このときは、薬剤熱も思い浮かべて下さい。

薬剤熱の発熱は微熱のこともあるし、ブルブルとした寒気を伴う高熱のこともあります。一番多いパターンは、微熱で始まり、徐々に38~39℃以上に達するといったものです。また、発熱の割に元気なことが多いという特徴があります。

薬剤熱を引き起こす最も頻度の高い薬剤は抗菌薬です。薬剤熱の約1/3を占めるとも言われています。抗てんかん薬による薬剤熱もあります。この場合はリンパ節が大きくなることがあります。高尿酸血症の治療薬であるアロプリノールも薬剤熱で有名です。この場合、重症発疹、肝障害、腎障害がみられることがあります。

薬剤熱を疑ったら、最も可能性の高い薬剤から一つずつ中止してゆきます。薬剤熱の原因となっている薬剤を中止すれば、72~96時間で速やかに解熱します。ただし、5日以上を要することもあります。