Vol. 87

海外旅行後の発熱

渡航外来には海外旅行中もしくは帰国後に発熱したということで多くの人が受診しています。発熱があるということで、空港の検疫所から紹介されてくる方もいます。このようなとき、開発途上国からの帰国者で注意しなければならない感染症があります。その最たるものとしてマラリアがあります。これは蚊に刺されることによって感染する病気です。マラリアには三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリア、熱帯熱マラリアがあるのですが、熱帯熱マラリアがとても恐ろしいのです。発熱、意識障害、痙攣、腎不全などとなり、早期に治療しないと死亡してしまいます。そのため、マラリアの流行地域にでかけた人に発熱がみられた場合にはマラリアの有無を確認する必要があります。マラリアの予防薬を飲んでいたから大丈夫という考えはやめましょう。飲んでいてもマラリアに罹患する人は多くいます。

その他に重要な感染症にはチフスがあります。これはチフス菌に汚染された飲食物を食べたり飲んだりすることによって感染します。高熱が続くのですが、血液が混じった下痢がみられたり、腸管に穴があいてしまうこともあります。

デング熱も問題となっています。これは蚊に刺されることによって感染するウイルス感染症です。デングウイルスには4種類があります。そのため、一度感染しても別の種類のデングウイルスに感染することがあります。デング熱では発熱や頭痛、発疹などがみられますが、2回目以降の感染ではデング出血熱という重篤な感染症に罹患することがあり、生命の危険性があります。

海外旅行後の発熱の原因は開発途上国で問題となっている感染症ばかりではありません。インフルエンザが発熱の原因になっていることがあります。日本ではインフルエンザは冬季に流行するというイメージかもしれません。しかし、南半球では夏季に流行しています。赤道近くの国々では一年中流行しています。空港の待合室などで感染することがあります。

海外旅行後の発熱で大切なことは、自己判断しないことです。熱帯熱マラリアによる発熱であるにも拘わらず自宅や職場で我慢するようなことは是非とも避けてください。デング熱であったにも拘わらず、自然に治癒したということで安心してしまい、再び渡航することで別のデングウイルスに感染して重症化してほしくないのです。何が原因であったかの診断は大切です。そのため、病院に受診した場合には渡航先などを必ず医師に伝えるようにします。