各種消毒薬の特徴

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7.アルコール

特徴

アルコール(消毒用エタノール、70%イソプロパノール)は、細菌芽胞を除くすべての微生物に効力を示す(図16)。
すなわち、アルコールはクロストリジウム・ディフィシルの芽胞などには無効である。 しかし、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や腸管出血性大腸菌などの一般細菌のみならず1,2)、結核菌やB型肝炎ウイルスなどにも有効な消毒薬である3~5)

図16. 微生物の消毒薬抵抗性の強さ、およびアルコールの抗菌スペクトル

微生物の消毒薬抵抗性の強さ、およびアルコールの抗菌スペクトル

消毒対象

(1)注射部位、カテーテル刺入部位、術野

アルコールは一般細菌を10秒間で殺滅できるなど短時間で効力を発現する。
また、すみやかに乾燥するので、残留性がない。したがって、注射部位の正常皮膚に対する第1選択消毒薬である。 また、カテーテル刺入部位や術野に対しては、アルコールの速効性とクロルヘキシジン(ステリクロン®など)の持続効果を期待して、 0.5%クロルヘキシジンアルコール(ステリクロン®エタノールなど)が汎用されている6,7)

なお、アルコールにアレルギーを示す患者の皮膚消毒では、ポビドンヨード(イオダイン®Mなど)を代用する。また、ポビドンヨードにもアレルギーを示す患者には、0.1~0.5%クロルヘキシジンを代用する。

(2)アンプル・バイアル

アルコールは注射剤のアンプルやバイアルの第1選択消毒薬でもある。この他、体温計、聴診器および喉頭鏡などの消毒にも適している。

(3)洋式トイレの便座、ドアノブ

アルコールは短時間で効力を示すのみならず、軽い汚れであれば、その除去効果も期待できる。 したがって、洋式トイレやポータブルトイレの便座、フラッシュバルブ、ドアノブ、水道ノブおよびオーバーテーブルなどの消毒にも適している(図17)。

なお、ノロウイルスやロタウイルスに対するアルコールの効果はやや劣る。
したがって、これらのウイルスが対象となる場合には、十分量のアルコールでの2度拭きを行う8~10)。また、ノロウイルスに対して抗菌力が増強した環境用アルコール製剤(ザルクリーン)の使用も勧められる。

図17. ポータブルトイレの便座のアルコール清拭
ポータブルトイレの便座のアルコール清拭

消毒効果のみならず、汚れの除去効果が期待できる。

(4)手指

消毒用エタノールに保湿剤などを添加した速乾性手指消毒薬(消毒用エタプラスなど)が、日常や術前の手指消毒に使用されている11~13)
日常の手指消毒では、2~3mLを手指に擦り込んで用いる。ただし、汚れがある手指の消毒には適さない。 なぜなら、抗菌効果が得られないのみならず、汚れを塗り広げてしまうからである。 速乾性手指消毒薬を汚れが付着している手指に用いる場合には、まず流水と石けんで手を洗い、その手をペーパータオルなどで乾燥させてから使用する必要がある。

一方、術前の手指消毒では、0.5%クロルヘキシジン含有の速乾性手指消毒薬(ステリクロン®ハンドローション0.5%など)を用いる。
石けんと流水での手洗い後に、ペーパータオルで手指を乾燥させ、その後に速乾性手指消毒薬2~3mLを計3回適用する。

アルコールの取り扱い上の留意点

0.5%クロルヘキシジンアルコールでの術野消毒後に電気メスを使用したところ、患者が熱傷を負った例がある(図18)。皮膚と手術台の間に溜まっていた本薬に電気メスの火花が引火したためであった14,15)

このように患者付近から青白い炎が上がる事故は稀ではない。
術野へのアルコール製剤の使用に際しては、皮膚と手術台の間に溜まるほどの大量使用は避けるとともに、アルコールの乾燥を確認してから電気メスなどを使用する必要がある。

また、速乾性手指消毒薬は刺激性や脱脂作用を示す。したがって、創傷や湿疹などがある手指への使用は差し控えたい。
なお、速乾性手指消毒薬は発赤、かゆみ、水疱などの皮膚トラブルの原因になることもあるが、これらの副作用は発現後2~3日以内に消失することが多い16)

この他、アルコールをプラスチック類やレンズ接着面に用いると、材質劣化が生じることがある。 たとえば、保育器のフード部分に用いると、ひび割れや曇りが生じる。また、内視鏡の浸漬に用いると、レンズ接着面にダメージが生じることがある。

図18. アルコールの引火に注意

図18. アルコールの引火に注意

引用文献

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  2. Oie S, Kamiya A, Tomita M, et al: Efficacy of disinfectants and heat against Escherichia coli O157:H7. Microbios 98, 7-14, 1999.
  3. Rutala WA, Cole EC, Wannamaker NS, et al: Inactivation of Mycobacte-rium tuberculosis and Mycobacterium bovis by 14 hospital disinfectants. Am. J. Med. 91(suppl 3B), 267-271,1991.
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  6. Garland JS, Buck RK, Maloney P, et al: Comparison of 10% povidone-iodine and 0.5% chlorhexidine gluconate for the prevention of peripheral intravenous catheter colonization in neonates: a prospective trial. Pediatr. Infect. Dis. J. 14: 510-516, 1995.
  7. Himer A, Ostromecki A, Direnfield J, et al: Prospective randomized tial of 10% povidone-iodine versus 0.1% tincture of chlorhexidine as cutaneous antisepsis for prevention of central venous catheter infection. Clin. Infect. Dis. 31: 1001-1007, 2000.
  8. Gehrke C, Steinmann J, Goroncy-Bermes P: Inactivation of feline calicivirus, a surrogate of norovirus ( formerly Norwalk-like viruses), by different types of alcohol in vitro and in vivo. J. Hosp. Infect. 56: 49-55, 2004.
  9. Kampf G, Grotheer D, Steinmann J: Efficacy of three ethanol-based hand rubs against feline calicivirus, a surrogate virus for norovirus. J. Hosp. Infect. 60: 144-149, 2005.
  10. Ansari SA, Sattar SA, Springthorpe VS, et al: In vivo protocol for testing efficacy of hand-washing agents against viruses and bacteria: experiments with rotavirus and Escherichia coli. Appl. Environ. Micro-biol 55: 3113-3118, 1989.
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  12. Larson EL, Eke PI, Laughon BE: Efficacy of alcohol-based hand rinses under frequent-use conditions. Antimicrob. Agent. Chemother. 30: 542-544, 1986.
  13. Bryce EA, Spence D, Roberts FJ: An in-use evaluation of an alcohol-based pre-surgical hand disinfectant. Infect. Control Hosp. Epidemiol. 22: 635-639, 2001.
  14. 木村 哲、佐藤重仁、田島啓一、他:電気メスの火花がアルコール含有消毒液およびスポンジ枕に引火し熱傷を生じた症例.手術医学16: 222-223, 1995.
  15. Willis J, ed: Burns with hibitane tincture. FDA Drug Bull. 15 April: 9, 1985.
  16. Cimiotti JP, Marmut ES, Nesin M, et al: Adverse reactions associated with an alcohol-based hand antiseptic among nurses in a neonatal intensive care unit. Am. J. Infect. Control 31: 43-48 , 2003.